コネクタ
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高速伝送対応シールド付きFPCコネクタ

1. はじめに


FPCコネクタは液晶ディスプレイなどの機器内ユニットと基板間をさまざまな形態で接続できることから、多くの電子機器に採用されている。
これまでFPCケーブルにおいては、多層FPCや銀あるいは銅ペーストを印刷したFPCケーブルといった高速伝送特性ではなくシールド特性の向上を目的とした製品が開発されてきたが、ノイズに対する効果はあるものの、デジタル信号の高速化に伴う高速伝送特性という観点からは満足のいくレベルには至っていない。また、伝送線路としてはFPCケーブルだけでなく、接続されるコネクタも伝送線路となるため、FPCケーブルとコネクタが一体となった高速伝送特性の向上が必要となってきている。
本稿では、SMKが開発したデジタル信号の高速伝送が可能なFPCコネクタ「ENシリーズ」について、その製品概要と伝送特性の一部について紹介する。

2. コネクタレパートリー

まずはじめに、SMKで開発した「ENシリーズ」のラインアップを紹介する。(図1)
(1)0.3mmピッチFPCコネクタ(EN-31シリーズ)
0.3mmピッチ、実装高さ1.2mmのFPCコネクタであり、ワンタッチでFPCを挿入できる上に安定したFPC保持力を実現した構造となっている。本製品は、モバイルゲーム機器でのカメラ接続などに採用されている。
(2)0.3mmピッチFPCコネクタ(EN-32シリーズ)
0.3mmピッチ、実装高さ0.8~0.9mmのFPCコネクタであり、低背でありながら多極に対応している(最大42ピン)。本製品は、スマートフォン,タブレットなどの小型モバイル機器への採用が決まっている。
(3)0.3mmピッチFPCコネクタ(EN-33シリーズ)
0.3mmピッチ、実装高さ0.6mmの超低背タイプのコネクタである。本製品は、小型スマートフォンに採用されている。
(4)0.5mmピッチFPCコネクタ(EF-5Dシリーズ)
0.5mmピッチ、実装高さ2.5mmの堅牢タイプのコネクタである。当社独自の接続方式によるフロントフリップ構造となっている。本製品は、高精細デジタルTVやカーナビゲーションシステムなどへの搭載が進んでいる。


【 図1】高速伝送対応コネクタ
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3. 製品コンセプト

FPCケーブルおよびFPCコネクタでの高速伝送対応を図るために、特性インピーダンスとEMI対策の2項目について構造検討を行った。
3-1.特性インピーダンス
 データ伝送の高速化により、デジタル信号の伝送損失や反射による波形ひずみなどの問題が懸念される。そこで伝送特性要因のひとつである特性インピーダンスを整合(マッチング)させることが特に重要となる。
(1)コンタクト断面の均一化
FPCケーブルと接続するコネクタのコンタクトにおいても伝送線路となるため、特性インピーダンスのマッチングが重要である。そこで、コンタクトのどの部位においてもインピーダンスのミスマッチがおきないように、コンタクトの断面積が均一となるような構造が必要となるが、FPCコネクタに一般的に使用されているフォークコンタクトでは難しい。
本コネクタはコンタクトをベローズ形状とすることで、コネクタに必要なバネ性能を確保しつつ、伝送特性に必要な断面積の均一化を図った。。
(2)FPCパターンの最適化
デジタル信号の高速化を図るためにはシリアル信号による伝送が必須であり、MHLやUSBをはじめとした高速伝送規格との接続を想定し、差動信号によるインピーダンスマッチングを検討することとした。
FPCケーブルにおいては、後で述べるEMI特性も考慮し両面FPCケーブルを採用することとした。
両面FPCケーブルの構成としては片面を信号線として使用し、その裏面側をグランド用の銅線ベタあるいはメッシュ構造とした。これはいわゆるマイクロストリップ伝送線路であり、比較的容易にインピーダンスマッチングを行うことができる。
これらの項目を検討した結果に対して、最終的にはFPCケーブルを含めた伝送シミュレーション(電磁界解析)を実施し、最適な構造を決定している。
3-2.EMI対策
(1)シールドプレートの採用

コネクタ構成として、インシュレーターとコンタクトという構成に加えて、EMI対策を施すために今回はさらにシールドプレートを採用することとした(図2)。 シールドプレートは基板とはんだ付け接続させることでグランド接地が可能となる。また、シールドプレートは両面FPCケーブルのグランド面と接続させる構造とすることにより、FPCケーブルとコネクタが一体となってグランド化できる伝送線路構造となる。
そのほか、シールドプレートの剛性により、コネクタの小型化・低背化においてもコネクタの堅牢化に貢献できるという利点もある。


【図2】シールドプレートとグランド接地
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(2)グランドの強化
先に述べたシールドプレートは、さらにコンタクトリード部の間にもはんだ付けされグランド接地させる構造とした。本構造により、コネクタ信号線間にも複数ポイントでグランド接地させることができ、よりノイズに対する耐性が強化されることにより十分なEMI特性を得ることが可能となる。

4. FPCケーブル違いによる高速伝送特性の比較評価

次に、コネクタレパートリーの中から代表としてEN-31での伝送特性結果について報告を行う。
ここではFPCケーブルおよびFPCコネクタにおいて、2項で検討した特性インピーダンスマッチングされたシールド付両面FPCケーブルと高速伝送対応コネクタ、またそれぞれ高速伝送対応していないノーマルのFPCケーブルとコネクタの組み合わせで伝送特性の比較を行った。
評価は以下の組み合わせで実施し、測定サンプルの形態を図3に示す。


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【図3】評価サンプル形態
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4-1.インピーダンス
 TDR(Time Domain Reflectometry)により測定した結果を図4に示す。シールド付両面FPCケーブルと高速伝送用コネクタの組み合わせの特性が一番安定しており、ミスマッチが小さかった。
一方、シールド付き両面FPCケーブルとノーマルFPCコネクタの組み合わせではFPCケーブル部は安定しているものの、コネクタ接続部でミスマッチが大きく不安定な結果となった。
また、ノーマルFPCケーブルとノーマルFPCコネクタの組み合わせではコネクタ部,FPCケーブル部共にミスマッチが大きく不安定な結果となった。
 以上の結果により、2項で検討したシールド付き両面FPCケーブルと高速伝送用コネクタの組み合わせが最も高速伝送に適していることが確認できた。


【図4】TDR差動インピーダンス測定結果
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4-2.ノイズ
 コネクタシールド面およびFPCケーブルのグランド面側上部1mm地点においてそれぞれノイズの近傍電磁界解析を行った(図5)。3次高調波(1,500MHz)での解析結果を図6に示す。
結果より、FPCだけでなくコネクタにもシールド機能を持たせた方がコネクタ部のノイズを抑制できること、コネクタにシールド機能を持たせることでFPCケーブル部のノイズ抑制にも効果があることが確認できた。
なお、解析は9次高調波(4,500MHz)まで行い、3次高調波と同様の優劣差があることを確認している。


【図5】ノイズ解析条件
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【図6】ノイズ解析結果(1,500MHz)
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5. 高速伝送規格評価

高速インターフェイスの需要拡大に伴い、本コネクタにおいても様々な高速伝送規格に基づいた評価を行っている。当社内にて評価試験を行い、規格を満たしていることを確認した中で代表的なものを次に示す。
・MIPI D-PHY(伝送速度:1Gbps)
・MHL2.0(伝送速度:2.25Gbps)
・HDMI(伝送速度:4.95Gbps)
・USB3.1(伝送速度:5.0Gbps)
 伝送速度について、USB3.1(5Gbps)のアイパターン規格と比較した測定結果を図7に示す。アイの幅・高さの規格と測定値を比較し、5Gbpsの帯域においてもアイの開口が十分に取れていることが確認できた。


【図7】アイパターン測定結果(USB3.1、5Gbps規格)
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 次に伝送ロスについて、USB3.1(5Gbps)のインサーションロス(SDD12)規格と比較した測定結果を図8に示す。最大7.5GHzの周波数帯域においても規格値の25dB以内の減衰に収まっており、高周波帯域においても伝送ロスが小さい事が確認できた。


【図8】インサーションロス〔SDD12〕(USB3.1、5Gbps規格)
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また、MHL2.0の規格では<b>図9に示すように遠端クロストーク(SDD12)を測定しており、こちらも規格内のクロストーク量に収まっていることが確認できた。


【図9】遠端クロストーク〔SDD12〕(MHL2.0規格)
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6. まとめ

電子機器の小型化に伴い、機器内部での配線にFPCケーブルを採用する場合が多い現状からすると、FPCケーブルを使用したままでデジタル信号の高速化が可能となるメリットは計り知れない。今後はますますデータ伝送の高速化が進むことが予想され、適合FPCとしてシールド付き両面FPCを採用しコネクタを高速伝送仕様に最適化した「ENシリーズ」は、データ伝送の高速化に対して大きく貢献するものと考える。


SMK株式会社 CS事業部 
出典:電波新聞 2014年7月3日 特集「高周波部品技術」
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