タッチパネル
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車載ディスプレイ用タッチパネルの動向

1.はじめに

タッチパネル(以降TPと略称する)の動作原理は多様な方式があり、静電容量式・光式・抵抗膜式・電磁誘導式などが代表例である。カーナビゲーション(以降カーナビと略称する)での最初のTP導入は光(赤外線)式であったように記憶している。しかし、ここ2~3年で抵抗膜式のTPが搭載されるようになった。
この理由は耐熱性にすぐれたガラス-ガラスで構成されるTPが抵抗膜式でも使えるレベルに到達したこと、方式・構造が単純でシステム全体を安価にできたことが考えられる。抵抗膜式TPはフィルム-ガラスの構成が主流である。しかし、フィルムの耐熱性の問題から車載用途には向かないと言われていた。反面、現在では安価なフィルム-ガラスのパネルの搭載率も飛躍的にのびている。

2.市場の要求

2.1 低反射
車載用のTPは、あらゆる角度から大量の太陽光にさらされる。当然のことながらTP表面では反射がおこり視認性が低下する。そのためデイスプレーの上に取り付けられるTPには低反射であることが要求される。
反射を防止する方法は、材料自体(ガラス及びフィルム)を低反射化する方法とTP全体として低反射化する方法がある。材料の低反射化は、AR(Anti-Reflection)層を光が屈折する界面に形成することで行われているが、材料の組み合わせでは反射率は12%程度である。 それは抵抗膜式TPの場合、上下の抵抗膜部材を中間に空気層をはさんで貼り合わせる構造となり、空気層と抵抗膜部材(一般的にITO)間での反射を無視できないからである。
その界面での反射を防止するために円偏光機能を利用し製品化されているのがガラスーガラスで構成されるパネルである。この方法は光の屈折を防止して低反射化するのではなく、反射した光を偏光板でカットしパネル全体を低反射化するものである。従って、透過率は偏光板により低下するので光源(デイスプレー)が充分な明るさを持たないと違和感を感じる。この円偏光板機能を使用したTPの反射率は6.5%程度となる。また、最近は高価な円偏光板のコスト低減策として偏光板のみを貼合したTPもある。但し、この場合の反射率は10%程度に上がる。
2.2 防汚
TPの操作は、指で押すことでなされるため表面が指紋などで汚れることはさけられない。少しでも汚れが目立ちにくく、ふき取りやすいことが要求される。目立ち難さについてはヘイズ、色、表面の凹凸状態などパラメーターが多く、また数値的指標がないことから主観的なものとなり目標化が非常に難しい。拭きとり易さについては、接触角、表面張力などの指標がある。但し、両方の機能を両立させる(目立ち難く・ふき取り易い)ことは非常に難しい。
2.3 ギラツキ
液晶デイスプレーの高解像度化に伴い、デイスプレー上に配置される抵抗膜式パネルにより少なからず液晶本来の色再現性が損なわれる。ユーザーからよく指摘を受け、改善を要求される項目に透過率、ギラツキが上げられる。透過率は数値をあげればよく開発の指標は明確である。しかしギラツキについては、液晶の解像度、パネル配置位置などに左右されるためセット組み込み状態での評価が必要となってしまう。
カーナビでは、DIN規格で大きさの制限があり8~9インチワイドのTPが上限であると考えられる。その中で多くの文字や絵の情報を表示させる要求に対し、LCDの高精細化が進み画像のギラツキ感が大きな課題となる。

3.技術動向

3.1 反射率の低減
車載用の抵抗膜TPには、フィルム-ガラスで構成されるものと、ガラス-ガラスで構成されるものがあるが上下の抵抗板を貼り合わせて作られていることに変わりがない。違いは、偏光板があるかないかである。(図1)
反射率の低減
【図1】
反射率は、偏光板と位相差板を組みあわせる(円偏光板)ことで6.5%となるが、要求はさらに高い レベルとなっている。更なる反射低減については、TP構成部材のどこで反射がおきているかを知る必要がある。円偏光でTP内部の反射を防止できれば残るは表面と裏面の反射を押えるしかないのでそこに反射防止膜を付加すれば反射率は1%以下にまで低減される。但し、デイスプレーの視認性を求めるならTPのみの改善ではなくデイスプレーセットとして評価したほうがよい。TP裏面にARを貼合するより、液晶面に位相差板を貼るほうが液晶面の反射を無視できるので理論的には効果がある。(図2)
反射率の違い
【図2】
3.2 反射防止膜(AR)層
一般的に反射防止膜は、高屈折層と低屈折層を積層させることで構成される。低屈折物質の代表 はSiであり、高屈折物質でよく用いられるのはTi、Nb、Zrなどがあげられる。製法はスパッタ、蒸着、コーテイングなどであるが現状タッチパネルの表面に使用すると弊害もあるため、ARを使用する時には注意する必要がある。
本来ARは人が操作するという目的で開発されたものではない。ほとんどのARに用いられているSi化合物はアルカリに弱く注意が必要である。今後益々、反射防止の要求があると考えられるため、操作耐久性のあるAR層を開発する必要がある。
3.3 防汚(指紋ふき取り性)
TP表面を触った時に汚れ(指紋)が付くのは現状避けられない。拭き取り易さの指標として純粋接触角、表面張力などがあるがこれらの指標は操作時間とともに変動する。原反が良好な状態であってもパネル加工時の熱履歴により性能低下になったりする。材料としてフッ素系の防汚層を塗付するのが一般的のようだが、時間とともに性能劣化するのは表面のAG(Anti-Glare)層と防汚層は分子的な結合力が弱いことによる。(TP表面をスプレー等で活性化する方法もある)防汚に関しては、耐久性が今後要求されるだろう。
3.4 汚れ(指紋)を見にくくする
防汚機能にも関連するが表面状態や光線状態により、汚れ具合は違って見える。パネル表面のヘイズ値を上げれば汚れが目立たなくなる。これは、ヘイズが高いと反射光の拡散される度合いが多くなるからである。
ヘイズを上げる方法としては、AG粒子の分散密度をあげれば高くなるが、粒子形状などは製造メーカーにより違うため同じヘイズであっても見え具合は異なる。ナノメートル単位で表面の粗さ(ピッチ、凹凸高さ、形状)を管理できるフィルム表面処理の手法の確立が求められている。なお、AGに関しては次に述べるギラツキと密接な関係がある。
3.5 ギラツキ対策
ギラツキは、LCDの画素とパネル表面のAG層の凹凸が干渉することにより発生する。TPは、液晶面(光源)から離れた位置にあるため(通常0.5~1mm)レンズ効果によりギラツキが増幅される。LCD表面がAG処理されている場合は、TPのAGを選択するのに困難を極める。LCDの表面は出きるだけAGがないほうがよいだろう。
TPは、デイスプレー最表面にあるため映り込み防止の機能は必修である。ヘイズが高いほうが有利なため高ヘイズのものにするが高すぎると画像が白くボケ透過鮮明度が損なわれる。最適なAGは、粒子が細かく均一に分散されたものということになるだろうか。AG層の粗さ、密度を変化させたTPを7インチ高精細液晶の上に乗せて液晶光の輝度バラツキを測定した例を(図3)に示す。凹凸が少ないAGのほうが輝度バラツキが少ないことがわかる。 。
表面輝度
【図3 表面輝度】

4.フィルム-ガラスの車載パネル

車に搭載された抵抗膜式TPは、当初は、ガラス-ガラスで構成されたTPが要求スペックに合致していることから純正採用となった。これは、円偏光板方式として反射率が6.5%にまで下げることができたことによる。
偏光板は、偏光フィルムを光学等方性のフィルム(TACが一般的)で挟んだ構造となっており偏光板とLCDの間の材料にも光学等方性を要求される。顧客要求を満足する材料は当初ガラス以外検討されなかった。しかし現状では、反射率をある程度犠牲にしてもコスト重視からフィルム-ガラスの構成のTPも採用されている。TP自体の反射率が高い欠点は、デイスプレーをユーザーが見やすい位置に調整できるメカニズムで補っているようだ。
TPにも光学等方性のフィルムを使用しているものがあり、低反射を得るためにPDAやビデオカメラでは既に実用化されているが、車載用途でも採用されるレベルにまで達している。車載用途では、偏光板を用いて製品化する際、高温(95℃)、高湿(85℃・85%)に耐える抵抗膜材料をフィルム上に加工する必要がある。しかし、フィルムの耐熱性はガラスに比較して低いため、高温で抵抗膜の製膜ができない場合がある。
なお、大型のサイズのTPでは偏光板の熱収縮や湿度による伸びなどで表面形状が膨らんだり、 波打ったりすることがある。従って評価試験後の表面状態はガラスで構成されたパネルより劣る。表1にフィルムに転用可能な光学等方性材料の特性を挙げる。

5.将来展望

カーナビゲーションの伸びは各調査会社の予測でも年々増加傾向にあるようだ。車の更なる電子化が進み、その情報量が増大するなかで車載デイスプレイには今よりも多くの情報が表示され、そして操作しなければならない。そのなかで、スイッチ機能しかもたないタッチパネルにもその他の機能を複合した製品も開発されつつある。タッチ感触があるTP(当社ではフォースフィードバックTP)、などがあげられる。
参考文献
1) 井手文雄:ここまできた透明樹脂(2002)
2) 古井 玄:月刊デイスプレイ ‘00 8月号
3) 渡邊 彰:月刊デイスプレイ ‘01 2月号


筆者:SMK株式会社 TP事業部・今井 一博
出典:月刊ディスプレイ2004年3月号、月刊ディスプレイ別冊2009年7月

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